MUSE DIOR

ミューズ ディオール

「ミス ディオール」、それはフレグランスからクチュールまで、夢と歴史の扉を開く名前。ディオール ウーマンの普遍的で多元的な表現を想起させ、私たちの想像力に瞬く間に共鳴する名前。進化し続ける探求の証として、メゾンのコレクションを通じて語られるフェミニストの信条。数えきれないほどのクリエイティブな逸話に彩られた「ミス ディオール」は、幻想的でありながら非常にリアルな女性でもありました。インスピレーションであり、ディオールのコードであり、永遠のアイコンであったのです。
By Lucie Alexandre

BAL_2680821

© AGIP/BRIDGEMAN IMAGES

2018.926.a.VUE_PRINCIPALE_DET

© BRYAN ZAMMARCHI

「ほら、ミス ディオールよ!」1947年、モンテーニュ通り30番地のバックステージでミッツァ・ブリカールの声が聞こえました。ディオールのミューズであり、猫のようにしなやかなミッツァ・ブリカールから「ミス ディオール」という愛称で呼ばれたカトリーヌ・ディオールは、こうして一瞬にして伝説となりました。カトリーヌ・ディオールは、母マドレーヌ、そして親しかった兄クリスチャンと同じように、自然を深く愛していました。花は彼女の人生の中心的存在であり、彼女にとって花は、美への揺るぎない慈愛、常に回帰する無敵の春への愛を表現するものでした。カトリーヌ・ディオールはいつの季節も、花への情熱に生き、その情熱に支えられていました。パリのレ アール中央市場でブーケを売り、休暇中はヴァール県のカリアンで、バラやジャスミンなどの植物の栽培にいそしみました。ミューズであると同時にフランス レジスタンスのメンバーでもあった、クリスチャン・ディオールの「最愛の妹」は、並外れた強い個性を持ち、パワフルで、自由で、大胆なフェミニニティを体現していました。カトリーヌ・ディオールの持つ妥協を許さない不屈の意思や、計り知れない勇気、揺るぎない忠誠心、そして不遜なまでのエレガンスこそが、彼女を卓越の “ロールモデル” に、そして、ディオールの最初の “顔” のひとりとして初代「ミス ディオール」にならしめたのです。まさに、生きるエレガンスだったのです。

世界そして運命をも包み込むアイコニックなフレグランス「ミス ディオール」。カトリーヌ・ディオールへオマージュを捧げるために、「ミス ディオール」ほどふさわしいものはないでしょう。クリスチャン・ディオールはメゾン創設当初から、調香師ポール・ヴァシェールの協力を得て、夢のガーデンを官能的なシプレーの香りで思い描きました。「ニュールック」が大成功を収めたのと時を同じくして、「ミス ディオール」は新たなフェミニニティのマニフェストとして登場し、ルネサンスのように勢いに満ちたメゾン初のフレグランスとなったのです。

PAP Miss Dior 1 HD_AJOUT

© SOCIÉTÉ RENÉ GRUAU – WWW.RENEGRUAU.COM

2014.25.a_E10

© BRYAN ZAMMARCHI

CD_FNZ_026_054

© CHRISTIAN DIOR, DIOR HERITAGE COLLECTION, PARIS

「ミス ディオール」の愛に溢れ、永遠の煌めきを宿した繊細な香りは、その成功を確実なものにしました。「ミス ディオールが生まれたのは、ホタルが舞う、プロヴァンスらしい晩のことでした。夜と大地が奏でるメロディーにのせて、グリーンなジャスミンが美しく重なり合っていました」と回想したクリスチャン・ディオールの言葉は、緑豊かな心象風景のように構成されたこのフレグランスの複雑さを物語っています。シトラス ノートで始まり、フローラルのフレッシュさが続き、オークモスのウッディなアコードが余韻を残す繊細なハーモニー。1956年の貴重なアーカイブ資料に、「ミス ディオール」について次のような記述が残されています。「洗練された若い女性(中略)と煌びやかな夜のためのフレグランス。軽やかでありながら余韻が長く続くこのフレグランスには、最初は軽やかに、徐々に存在感を増していくような魅力があります」。この言葉は、「ミス ディオール」が「メゾンにとって永遠に若々しさ溢れるフレグランス」になるだろうと語ったカトリーヌ・ディオールの言葉とも重なります。そして、この言葉は今日に至るまで、若々しさへ贈る頌歌としてフランシス・クルジャンによって再解釈され、その “運命” を導き続けています。

全ての女性を祝福する「ミス ディオール」はまた、クチュール作品でもあります。卓越したクラフツマンシップが反映されたボトルには千鳥格子が刻まれ、ネックには優雅なダガーボウが結ばれています。再解釈される度にアートピースへと変貌するボトルは、1952年にフェルナン・ゲリー=コラにより、クリスチャン・ディオールの愛犬ボビーのフォルムにもなりました。最近では、エヴァ・ジョスパンをはじめとするさまざまなアーティストによって再解釈されています。

AH1972_0003-1

© ALL RIGHTS RESERVED. アレクサンドル・サシュ (テキスタイルデザイナー) 「Miss Dior」、1970年頃。PHOTOGRAPH BY BRYAN ZAMMARCHI, PARIS, 2021, DIOR HERITAGE COLLECTION, PARIS

AH1972_0002-1

© ALL RIGHTS RESERVED. アレクサンドル・サシュ (テキスタイルデザイナー) 「Miss Dior」、1970年頃。PHOTOGRAPH BY BRYAN ZAMMARCHI, PARIS, 2021, DIOR HERITAGE COLLECTION, PARIS

しかし、「ミス ディオール」は何よりも、スタイルでありアティテュードであり、創造的衝動なのです。メゾン創設後間もない頃のコレクションから、例えば1949年春夏 オートクチュール コレクションに登場したシルクの花で全体を纏った「ミス ディオール」ドレスのように、眩いばかりの刺繍で花冠の輪郭を描いたデザインを披露しています。たくさんの花びらで彫刻を施したようなこのドレスは、花やその特性が持つ、ポエティックな魅力と驚くべき多様性を体現しています。歴代のクリエイティブ ディレクターにとって “フレッシュさ” と “衝動性” の代名詞である「ミス ディオール」は、信条のように、心の叫びのように、数々のコレクションに彩りを与えてきました。こうして20あまりのバージョンの「ミス ディオール」ドレスが、クチュールの未来と相まった歴史を刻んできたのです。

この魅惑あふれる「ミス ディオール」ドレスは、クリスチャン・ディオールの後継者たちにインスピレーションを与えてきました。ラフ・シモンズは、2013-2014年秋冬 オートクチュール コレクションで、このドレスをレザーの花々で飾ったバリエーションにアレンジ。そして、マリア・グラツィア・キウリは、2018-2019年秋冬 オートクチュール コレクションのために、透明なスパンコールを刺繍したり、立体的な花々で際立たせた、イブニング アンサンブルのシリーズをデザイン。彼女はまた、2023-2024年秋冬 コレクションで、現実とイマジネーションの狭間で揺れ動くような、一見無重力に見えるような花々で装飾された、卓越の「ミス ディオール」ドレスを披露しました。このドレスは、チャーナキヤ工房とチャーナキヤ工芸学校の職人や生徒たちによって手作業で丁寧に色付けされた76枚のオーガンザ製の小さな花びらから成る花々で装飾されていました。

CD_FNZ_034_118

© CHRISTIAN DIOR, DIOR HERITAGE COLLECTION, PARIS

D : Culture - News - Code MIss Dior
 / 
00:00
D : Culture - News - Code MIss Dior
 / 
00:00
  • DIOR_PAP_AH_24-25_02_V2
  • DIOR_PAP_AH_24-25_06_V2
  • DIOR_PAP_AH_24-25_15_V2
  • DIOR_PAP_AH_24-25_31_V2

オートクチュールが「ミス ディオール」に比類なきエレガンスを与えたのに対し、プレタポルテは「ミス ディオール」に、主張のあるフェミニニティや大胆さ、快活さをもたらしました。1967年9月11日、プレタポルテに特化した新たな部門「ミス ディオール」が誕生します。マルク・ボアンはフィリップ・ギブルジェとともに、「ミス ディオール」を、女性解放を体現するシンボル、そして60年代のアイコンに仕立てます。オフビートなトーンで、よりカジュアル、鮮やかなカラー、膝上5センチまで短くカッティングされたスカートが特徴。街に渦巻くクリエイティブなエネルギーや、モダンな女性たちの日常生活、60年代の軽やかさ。こういった時代背景が「ミス ディオール」ラインに影響を与え、女性たちに選ばれるようになったのは当然の成り行きでした。「ミス ディオール」コレクションは単なるトレンドの枠にはまらず、社会の変化や新しい世代の願望に応えるものであり、「すべての女性に装いを」と願ったクリスチャン・ディオールのビジョンを引き継いでいるのです。まるで魔法にかけるように人々を惹きつける「ミス ディオール」のロゴは、強力なビジュアル アイデンティティを持つ “革命” を体現しています。フレグランスボトルに見られるクラッシックなロゴとは対照的な、この強烈でグラフィカルなロゴは、スカーフなどのアクセサリーに、まるで旗や標識のようにあしらわれています。マリア・グラツィア・キウリは、2024-2025年秋冬 コレクションで、ファッションがアトリエから飛び出して世界を魅了した、この決定的な時代からインスピレーションを得ました。その「ミス ディオール」がもたらした変化と継続の瞬間を見事に想起させるルックの数々。それらのフォルムやポップな色調は、「ミス ディオール」が見出した自由を間接的に表現しているのです。

全ての女性のミューズであり、常に新しく生まれ変わる「ミス ディオール」は、メゾンの世界観の隅々にまで息づくオーラそのもの。煌びやかで捉えどころのない「ミス ディオール」は、フレグランスやクチュールから「アール ドゥ ヴィーヴル(暮らしの美学)」に至るまで、軌跡や香りを残していくのです。「ミス ディオール」とは誰なのでしょうか。彼女は、全ての女性が夢見る誰か、なのです。

BAL_2680821
2018.926.a.VUE_PRINCIPALE_DET
PAP Miss Dior 1 HD_AJOUT
2014.25.a_E10
CD_FNZ_026_054
AH1972_0003-1
AH1972_0002-1
CD_FNZ_034_118